このゲームの舞台は、宮沢賢治が描いた理想郷「イーハトーヴォ」。宮沢賢治の作品をベースに下記の全9章で構成されており、プレイヤーは主人公である旅人となって賢治の世界を旅します。賢治の「失われた7つの手帳」を探し求める旅へとストーリーは展開していきますが、旅路には賢治の世界のさまざまな人々や動物たちが登場してきます。個性豊かな人々や動物たちと話をしながら、情報を集め、7つの手帳を手に入れるまで主人公の旅は続きます。さあ、「宮沢賢治の世界」へ旅立ちましょう。
ゲーム中にはたくさんのキャラクターが登場し、情報やアイテムを与えてくれます。主なものについて紹介しましょう。また、各キャラクターは原作より抽出し、それぞれアレンジしてあります。どの原作に登場しているのかあわせて紹介しますので、機会があったら原作も読んでみましょう。
かま猫 |
イーハトーヴォ市街地の北にある猫の事務所につとめている猫。プレイヤーがたずねていくと、いろいろ情報を教えてくれます。
●登場作品(原作) 「猫の事務所」 |
ファゼーロ |
イーハトーヴォ市街地北西にある羅須地人協会の会員。賢治さんに関する情報を教えてくれます。
●登場作品(原作) 「ポラーノの広場」 |
レオーノキュースト |
イーハトーヴォ市役所につとめている元博物局員。たずねていくと何かしら情報を教えてくれます。
●登場作品(原作) 「ポラーノの広場」 |
クーボー博士 |
イーハトーヴォ農学校で講師をしている大学者。
●登場作品(原作) 「グスコーブドリの伝記」 |
ほらぐま先生 |
貝の火の森にすんでいる半人半獣の仙人。昔は洞熊学校で、動物たちを教えていました。
●登場作品(原作) 「洞熊学校を卒業した三人」 |
カイロ団長 |
大きなトノサマガエル。イーハトーヴォ市街地にある「カイロ団長の店」のオーナー。
●登場作品(原作) 「カイロ団長」 |
虔十 |
おおらかでやさしい心を持った少年。
●登場作品(原作) 「虔十公園林」 |
土神 |
荒々しく身勝手だが、正直な地神。
●登場作品(原作) 「土神と狐」 |
狐 |
博識かつスマートで海外事情に詳しい狐。
●登場作品(原作) 「土神と狐」 |
樺の木 |
人と話をすることができる樺の木。
●登場作品(原作) 「土神と狐」 |
グスコーブドリ |
イーハトーヴォ火山局の技師。
●登場作品(原作) 「グスコーブドリの伝記」 |
ネリ |
グスコーブドリの妹。
●登場作品(原作) 「グスコーブドリの伝記」 |
オツベル |
イーハトーヴォ一番の商人。
●登場作品(原作) 「オツベルと象」 |
白象 |
象の森に住んでいる、好奇心の強い象。
●登場作品(原作) 「オツベルと象」 |
ゴーシュ |
金星楽団のセロ奏者。
●登場作品(原作) 「セロ弾きのゴーシュ」 |
四郎 |
雪渡りの村に住む、狐と仲のいい少年。
●登場作品(原作) 「雪渡り」 |
カン子 |
四郎の妹。四郎と同じく、狐と仲がいい。
●登場作品(原作) 「雪渡り」 |
紺三郎 |
四郎、カン子と仲のいい白狐。
●登場作品(原作) 「雪渡り」 |
本ゲームには、20数曲ものオーケストラサウンドが各シーンにちりばめられています。この音楽制作を担当していただいた多和田 吏さんに制作にあたってのコメントをいただきました。
「イーハトーヴォ物語」の音楽制作の依頼を受け作曲にとりかかったのは確か、我が家の前の畑に植えた「ハニーバンタム」という種のとうもろこしの収穫の時期だったと思います。異常気象にもかかわらず元気に育ってくれたとうもろこしの味は格別なものでした。
物が腐り土の養分になりそれが太陽と水と空気の絶妙なバランスの上に初めて作物として実を結ぶという「地球上の循環の原理」の大切さを感じる毎日なのですが、このことは畑だけではなく、世の中すべての事柄にあてはまると思っています。太陽の役割をするもの、空気の役割をするもの、水の役割をするもの、土の役割をするものが必ず存在し、それぞれの役割のバランスのとれた形で果たされた時に初めて、最良の成果が生みだされるものと確信しています。そして、それぞれの役割がどんな意味をもっているかというのは、実は幼少の頃の私達自身が、戸外での遊びの中から自然に発見し習得しているものなのだと思います。私が子供の頃も、戸外で一日中遊んでいるうちに朝まぶしい程だった太陽が夕方には赤くなり大地に映される影も長くなり、さらには風向きも変わってしまい、太陽が完全に沈む頃には、ちょっぴり不安な気持ちで家路を急いだものです。子供達はそういった自然の変化を体で感じとり「物の道理」を体得してゆくのでしょう。
今回の原作である「イーハトーヴォの童話集」には透き通った心の世界があり、読んでいると何故か昔懐かしくなり、幼少の頃の自分に戻りたいという気持ちでいっぱいになってしまいます。しかし、現代文明社会は、毎日毎日用済みのガラス細工のように壊されてしまっている無抵抗な幼いハートの存在に気づいていません。特に、朝も昼も夜もない都心では、もはや太陽もなければ空気も水も土もありません。あるのは、目を覆いたくなるようなお粗末でちっぽけな「社会人による社会人のための論理」だけです。そんな時だからこそ、私たち大人が幼少の頃の自分を呼び起こし、子供達の幼いハートを守ってあげる義務があると思うのですが、この「イーハトーヴォの童話集」はそうとは知らずに長い眠りにつこうとしている大人達の目を覚まさせる、目覚まし時計の効果をもっているような気がします。目覚まし時計が鳴り続けていても起きることができない大人はかなりの重症で、早期に治癒して欲しいと思います。
さて、私の一日には、多摩川の丘陵地にある我が家では緑に囲まれ自然と共に暮らし、その一方都心にある私のプライベートスタジオでは多数のエレクトロニクス製品に囲まれ、それらと格闘するという両極端な世界が、存在するのですが、今回の音楽制作はアコースティックな音楽作りのためにあえてスタジオにはこもらず、我が家でモチーフを五線紙に書きため、仕上げをスタジオで行うという方法をとりました。データを打ち込むにあたってはテンポや音符の一音一音を綿密に設定し、メロディーを口ずさむ人間の呼吸感や躍動感まで表現するよう心がけました。できあがった20数曲の楽曲には、幼少の頃の私から現在の私までの27年間に感じたことを余りなく投影できたと思います。スーパーファミコンではハード側のメモリー容量などの関係で制約がありましたが、新たにこれらの楽曲にアレンジを施しレコーディングすることによって完全な形に仕上げようと思っています。音楽制作も無事終了し、この「イーハトーヴォ物語」の世界を多くの人たちと分かちあえる日を期待しつつ、昨日畑に植えたイチゴの苗が厳しい冬の寒さに耐え、一日も早く甘くておいしい実を結んでくれることを願ってやまない今日このごろです。
最後に…。今回この「イーハトーヴォ物語」の音楽制作にあたり、多くの方々の多大な協力を得ることが出来ましたことを御礼申し上げるとともに、ソフトの制作に情熱を注がれた(株)ヘクトのスタッフの方々、宮沢賢治さんとその御家族の方々、そして私の愛する妻と2歳の息子に心より感謝いたします。
1992年10月30日 多和田 吏